Science Release

フレイル・サルコペニアが発症する新しいメカニズムに関する研究がCell Reports誌に掲載されました。

2022年7月28日

一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構 (IRPA)

日本の未来を見据えて

一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構(IRPA)(代表理事:今井 眞一郎)の吉岡潔志主任研究員は、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井 秀典。以下 国立長寿医療研究センター)の伊藤尚基プロジェクトリーダーとの共同研究により、フレイル・サルコペニアが発症する新しいメカニズムを発見し、その成果をCell Reports誌に発表しました。

 

超高齢社会において、フレイルや加齢に伴う筋量・筋力の低下(サルコペニア)は喫緊の社会的・経済的問題となっています。フレイル・サルコペニアを引き起こす原因は、多くの部分が未解明ですが、近年、加齢に伴うNAD+の低下が老化関連疾患の発症・進行に深く関わることがわかってきました。NAD+は非常に多くの酵素反応に関わり、老化•寿命の制御因子として知られるサーチュインをはじめ、代謝・生存など数多くの生化学反応•細胞内過程に関わっています。特にNAD+合成中間体のニコチンアミド•モノヌクレオチド(NMN)やニコチンアミド•リボシド(NR)を摂取することで、加齢に伴って低下した細胞/組織内NAD+を上昇させられるため、これらの「NAD+ブースター」と呼ばれる分子が抗老化物質の有力な候補として大きな注目を浴びています。

 

そこで伊藤尚基プロジェクトリーダーを中心とする研究グループは、NMNを細胞外から取り込むトランスポーターであり、NMN依存的にNAD+を上昇させるSlc12a8に注目し、脳の外側視床下部という領域における機能低下がフレイル・サルコペニアを引き起こす中枢性の一因であることを突き止めました。

 

まず外側視床下部におけるSlc12a8を遺伝学的な方法で抑制したところ、全身性のエネルギー消費量・炭水化物消費量が低下しました。さらに骨格筋量・筋力、走行距離、骨格筋における解糖系・タンパク質合成系が低下し、若齢マウスにおいてフレイル・サルコペニア様の症状が誘導されることがわかりました。これによって、外側視床下部におけるSlc12a8が全身性代謝と骨格筋機能を制御する重要な分子であることがわかりました。

 

さらに、この外側視床下部におけるSlc12a8は、加齢に伴い発現量が低下することがわかりました。その他にも、分子レベルの解析から、若齢マウスで外側視床下部のSlc12a8を抑制した場合の骨格筋と、通常の老齢マウスの骨格筋で共通した現象が起きていることも明らかになり、Slc12a8の減少がフレイル・サルコペニアと関連していることが考えられました。そこで老齢マウスにおいて、外側視床下部におけるSlc12a8の発現量を上昇させたところ、加齢依存的に低下していた全身性のエネルギー消費量・炭水化物消費量、骨格筋量・筋力、走行距離、骨格筋における解糖系が有意に上昇しました。すなわち、老齢マウスにおけるフレイル・サルコペニア様の症状を改善することができたのです。

 

以上の結果から、全身性代謝・骨格筋機能に外側視床下部におけるSlc12a8が重要な働きを持っていること、骨格筋の老化に中枢性の機能低下が関わっていること、そして外側視床下部におけるSlc12a8を活性化することで、フレイル・サルコペニアの病態の少なくとも一部を改善できることが示されました。サルコペニア・フレイルが発症する原因の解明に繋がるため、今後のフレイル・サルコペニアの予防・治療法の研究開発において、大きく貢献できることが期待されます。

 

また、NMNのヒトにおける臨床治験において、その有用な効果が骨格筋特異的に認められることが報告されていましたが、今回の発見がそのメカニズムに説明を与える可能性も考えられます。さらに、フレイル•サルコペニアの予防には運動が非常に重要であることが知られていますが、IRPAでの今後の研究では、NMNおよびそのトランスポーターであるSlc12a8、加えて、NMNを合成する重要な酵素であるNampt(nicotinamide phosphoribosyltransferase)を中心に、運動の抗老化作用のメカニズムを調べていく予定です。

 

本研究成果は、米国東海岸時間2022年7月26日(火)午前11時にCell Reports誌に掲載されました。本研究は、主としてAMED(JP18pc0101021)の研究助成を受けて行われました。

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論文情報

表題

Slc12a8 in the lateral hypothalamus maintains energy metabolism and skeletal muscle functions during aging

 

研究チーム

伊藤尚基(研究所 中枢性老化-骨格筋代謝-運動機能制御研究プロジェクトチーム)

高津藍(神戸医療産業都市推進機構)

伊藤裕美(神戸医療産業都市推進機構)

小池悠華(神戸医療産業都市推進機構)

吉岡潔志(一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構;IRPA)

亀井康富(京都府立大学)

今井眞一郎(ワシントン大学医学部発生生物学部門・医学部門;一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構(IRPA)代表理事;国立長寿医療研究センター理事長特任補佐)

 

掲載誌

Cell Reports

 

論文URL

https://doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111131

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