top of page

Science Release

老化のコントロールセンターとして機能する視床下部の、加齢によるNAD+減少およびNAD+合成の特徴に関する新たな研究がnpj Aging誌に掲載されました。

2023年2月6日

一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構 (IRPA)

日本の未来を見据えて

一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構(IRPA)(代表理事:今井 眞一郎)の吉岡潔志主任研究員は、神戸医療産業都市推進機構先端医療センター老化機構研究部(当時)のSean Johnson博士との共同研究により、脳内において老化のコントロールセンターとして機能している視床下部のNAD+を、視床下部内の各領域(神経核)ごとに測定する技術を開発し、この方法により各神経核における加齢によるNAD+量への影響を明らかにしました。また、若齢マウスの血液から取り出した細胞外小胞(extracellular vesicles; EVs)に含まれるNAD+合成系酵素eNAMPT(eNAMPT-EVs)を高齢マウスへ投与すると、視床下部の特定の神経核でNAD+が上昇することを明らかにし、その成果を2023年1月25日にnature partner journals Aging(npj Aging)誌に発表しました(論文は以下のサイトにおいてオープンアクセスとなっています)。

https://www.nature.com/articles/s41514-023-00098-1

 

加齢に伴う組織中のNAD+の低下は、生理的な機能低下を引き起こし、老化の重要な引き金となっています。特に、代謝、睡眠、摂食行動、自律神経系など、私たちの身体にとって必須の機能を制御する視床下部という部位のNAD+代謝を維持することは、哺乳類の老化・寿命制御に重要な役割をもつことがわかってきました。視床下部は、異なる機能・特徴をもつ神経細胞集団によって、神経核と呼ばれる小領域に区別されますが、これらの神経核ごとのNAD+濃度の変化を正確に測定することはこれまでできず、加齢による変化等も不明なままでした。今回、私たちは視床下部の核ごとのNAD+量を測定するために、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)と高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた新しいNAD+測定方法を開発し、凍結切片上の特定の領域から得られるわずかなサンプルに含まれるNAD+を測定することに成功しました。

 

この方法を用いて、3ヶ月齢の若齢マウスと22ヶ月齢の高齢マウスの視床下部NAD+量を神経核ごとに比較したところ、弧状核(ARC)、内側視床下部(VMH)、外側視床下部(LH)でNAD+レベルが顕著に減少し、背内側視床下部(DMH)では依然としてNAD+が保たれることを明らかにしました。また、ニコチンアミド•モノヌクレオチド(NMN)を投与すると、これらすべての神経核でNAD+量が有意に増加することを確認しました。さらに、細胞外ニコチンアミド•ホスホリボシルトランスフェラーゼ(eNAMPT)を含む細胞外小胞(eNAMPT-EVs)を若齢マウスの血液から回収し、これを高齢マウスに投与すると、ARCとDMHのNAD+量が特異的に増加しました。一方で肝臓のNAD+量は増加しなかったことから、eNAMPT-EVsの作用には組織特異性があることが示唆されました。

 

視床下部の各神経核では、NAD+合成や消費に関わる主な酵素は、加齢においてその発現に有意な変化は認められませんでした。しかし、DNAダメージに応答する遺伝子であるp16や、炎症性サイトカインであるTnfa遺伝子の発現が、老齢マウスの視床下部神経核で上昇していたことから、DNAダメージや炎症が視床下部におけるNAD+量の減少を招いている可能性が考えられました。

 

これらの結果は、新しいNAD+測定方法の確立とともに、視床下部における加齢に伴うNAD+代謝制御の神経核単位での違いや、eNAMPT-EVsによるNAD+合成の組織特異性を示唆する重要な知見です。今回確立した方法によって、視床下部を始めとする脳や他の末梢組織における微小な領域でのNAD+測定が可能となり、哺乳類の老化・寿命制御に重要な NAD+代謝の理解を次のステップへと進めることが期待されます。また、今回の手法を用いて明らかになったeNAMPT-EVsの投与による視床下部特定領域でのNAD+の選択的増加は、新たな抗老化方法論の開発につながることが期待されます。

 

本研究は、AMED「老化メカニズムの解明•制御プロジェクト」(令和4年に終了)の「個体•臓器老化研究拠点」における研究の一環として、神戸医療産業都市推進機構先端医療研究センター老化機構研究部(当時)とIRPAとの共同研究として行われました。

論文情報

表題

Quantification of localized NAD+ changes reveals unique specificity of NAD+ regulation in the hypothalamus

 

研究チーム

Sean Johnson(神戸医療産業都市推進機構先端医療センター老化機構推進部(当時))

吉岡潔志(一般社団法人プロダクティブ•エイジング研究機構;IRPA)

Cynthia S. Brace(ワシントン大学医学部発生生物学部門)

今井 眞一郎(ワシントン大学医学部発生生物学部門•医学部門;一般社団法人プロダクティブ•エイジング研究機構(IRPA)代表理事)

 

掲載誌

npj Aging

 

論文URL

https://www.nature.com/articles/s41514-023-00098-1

【リリースの内容に関するお問い合わせ】
 

一般社団法人プロダクティブ・エイジング研究機構(IRPA)

〒108-0075 東京都港区港南一丁目九番36号 アレア品川13階 エキスパートオフィス品川801号室

<報道に関すること>

E-mail: info@irpa.ne.jp

<この研究に関すること>

bottom of page