History of NMN
01.
はじめに
皆さんは、「NMN」という名称を見たり、聞いたりしたことがあるでしょうか?ニコチンアミド•モノヌクレオチド(Nicotinamide Mononucleotide)という物質の略称です。NMNは世界中で基礎研究、臨床研究が進められており、これからご説明していくように、今まで市場に出てきた「サプリメント」として販売されている数多くの物質とは比べものにならないほどの科学的実証を伴った物質です。このような背景から、NMNは抗老化物質の最有力候補の一つとして注目される、「ニュートラシューティカル」として位置付けられています。「ニュートラシューティカル」というのは、生体内あるいは食品の中に存在する物質で、私たちの身体の機能にとって有用な作用をもたらすことが科学的に実証されている物質の総称です。このように、NMNは今や、抗老化作用を持つ可能性のある「ニュートラシューティカル」として世界中で注目されるようになりました。2026年にはすでに世界で1000億円以上の市場に成長しており、2030年代初頭には6000億円以上の市場に成長する、と予測されています。ただそれだけに、品質の保証が全くなされていないような粗悪な製品や、さらにはNMNを全く含んでいないような偽物の製品までも市場に出回る状況となっており、NMNを入手する際には確かな情報に基づいて、信頼のおける供給元から入手することが非常に重要になっています。
日本では、NMNは過熱気味とも言える大きなブームとなっていますが、これには訳があります。実はNMNの工業生産を世界で初めて可能にしたのは、日本の企業だったのです。さらに、世界で初めてNMNの製品化を果たしたのも日本の企業でした。このようにNMNは、言わば「日本発」のニュートラシューティカルであった訳で、そのことが今日の日本におけるNMNブームを作り出す原因となっている、と言えると思います。
このように、NMNはいたる所で大きな話題になっています。しかしながら、NMNがどういう経緯を経て世の中に出てくることになったのか、その背景にある科学研究の歴史はどのようなものなのか、ということについては、なかなかまとめて知る機会がないのではないか、と思います。ここでは、NMNという非常に興味深い物質が辿ってきた道のりをふりかえって、NMNの基本的な知識についてわかりやすくまとめてみることにしましょう。
02.
NAD+とNMNの研究の歴史

図1 NMNはNAD+に変換されて働く
NMNは私たちの体の中で、NAD+と呼ばれる物質に変換されます(図1)。NAD+の正式な名称は、ニコチンアミド•アデニン•ヂヌクレオチド(Nicotinamide Adenine Dinucleotide)と言います。NAD+は、すべての生物が生命を営むために必要としている非常に重要な物質で、生物にとって欠かせない「生命エネルギーの通貨」として働いています。NMNは、NAD+の研究の歴史の中で見つかってきた物質なので、まずは簡単にNAD+の研究の歴史を辿ってみることにしましょう。
NAD+の発見は1906年に遡ります。ハーデンとヤングという二人のイギリスの生化学者が、酵母の抽出物のアルコール発酵の過程で、「小さな物質」が必要とされることを見出しました。その後、スウェーデンの化学者フォン•オイラー=ケルピンが、この物質が「ヌクレオチド」と呼ばれる種類のものであることを確定し、これらの発見によりハーデンとフォン•オイラー=ケルピンは1929年にノーベル化学賞を受賞しました。さらにその後、ドイツの医師であり生理学者であったワールブルグが、NAD+が「酸化還元反応」という生物に必須の酵素反応に使われる重要な物質であることを発見し、1931年にやはりノーベル医学生理学賞を受賞しました。20世紀の前半は、NAD+をめぐる科学の黎明期であった、と言えるでしょう。
NAD+の研究の歴史は、20世紀半ばになって興味深い進展を迎えます。アメリカの生化学者エルヴィーエムが1949年に、19世紀から20世紀にかけてアメリカやヨーロッパで死病として恐れられた「ペラグラ」という病気が、ニコチンアミド、あるいはニコチン酸を与えることで予防、治療することができることを見出しました。そしてエルヴィーエムは、それがNAD+の合成による作用であることを明らかにしました。この研究により、ニコチンアミドとニコチン酸はNAD+を作るために必須の出発物質であることが明らかとなり、共に「ビタミンB3」と呼ばれることになりました。これらの数々の発見を経て、NAD+の研究は1950年代から60年代にかけて、最初の黄金期を迎えることになります。
この黄金期の最初を飾る論文が、1963年にシャンボン、ワイル、マンデルという3人のフランスの科学者によって発表されました。NMNという物質名が、論文のタイトルとして初めて世に出たのがこの一報です。ここでは、NMNがある特別な酵素を活性化させることが報告されたのですが、この酵素は後に、NAD+を使って遺伝情報を担うDNAを修復するために必須の働きをするものであることが明らかになりました。まさに丁度その頃、日本においてもNAD+生物学の黎明期を支える重要な研究が、京都大学の早石修研究室において行われていました。早石研は、トリプトファンというアミノ酸からNAD+を合成する経路を発見し、NAD+生物学の中心地の一つとして、世界の研究を牽引しました。その後、1980年代、90年代にも、NAD+から作り出される新しい物質や、それらの反応を担う酵素が次々と見つかっていきました。
NAD+研究の第2の黄金期は、2000年から現在に至るまでになります。2000年に、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のグアレンテと今井により、現在サーチュインと呼ばれている酵素が、NAD+を使ってタンパク質の「脱アセチル化」と呼ばれる反応を行う、それまでに全く知られていなかった作用をもつ酵素であることが報告されました。しかも、この新しい酵素が、老化や寿命を制御するために重要な役割を果たしていることが明らかとなり、これによってNAD+の生物学に対する興味が一挙に高まりました。それとともに、NAD+という物質が体の中でどのように合成されたり、消費されたりするのか、という研究が盛んに行われるようになりました。このような流れの中で、40年近い歳月を経て、NMNに関する研究に新たな展開が生み出されることになったのです。
03.
NMNを合成する酵素NAMPTの発見
2000年代初頭には、NAD+の合成に関わる酵素が次々と同定されました。これらの酵素の中で、ニコチンアミドからNAD+の合成を出発させる酵素については、長らくその正体が不明のままでした。この酵素は、ニコチンアミド•ホスホリボシルトランスフェラーゼ(Nicotinamide Phosphoribosyltransferase)という長い名前を持っていますが、略してNAMPT(ナムピーティー、と読みます)と呼ばれています。2002年にベルギーのレオ研究室が、活性化されたリンパ球の中で増えてくるPBEFと呼ばれていた因子がこのNAMPTの酵素活性を示すこと、すなわちNAMPTそのものであることを報告し、正体不明だった重要な酵素がついに明らかになりました。そして2004年に、米国ワシントン大学の今井研究室がこの酵素を単離して生化学的な性質の詳細を明らかにするとともに、NAMPTがNAD+合成を促進することによってサーチュインの活性を高める働きを持っていることを証明しました。
NAMPTの遺伝子を壊したマウスを作ると、発生の非常に早い段階で死んでしまいます。つまり、この酵素は哺乳類が正常に発生してくるためになくてはならないものなのです。ところが興味深いことに、この酵素の遺伝子は脊椎動物とバクテリアは持っているのですが、その間の生物種のほとんどはこの酵素を持っていません(ある種のカイメンが持っていたりしますが、極めて稀です)。また哺乳類とバクテリアのNAMPTを比べると、驚くほどよく似ています。バクテリアでは、このNAMPTの遺伝子はプラスミドと呼ばれるリング状のDNAの中にコードされており、なんとバクテリア間でそのプラスミドを受け渡していることが知られていました。そしてさらに驚くのは、NAMPTの遺伝子は、バクテリアに寄生して増えるウィルスのような生物バクテリオファージに由来するらしいことがわかったことです。実際、バクテリオファージの一種にビブリオファージと呼ばれている極小の生物がいるのですが、この生命の最小単位ともいうべき生物の遺伝子の中に、NAMPTの遺伝子、サーチュインの遺伝子が組み込まれており、NAD+を合成し、さらにそれを使うための酵素のセットを持っている、ということが報告されています。こんな極限的に小さな生命体の中に、NAD+を作って消費する酵素のセットが組み込まれている、という驚くべき事実は、NAMPTとサーチュインの関係が生命の進化の歴史の中で非常に古いものであることを示しています。これほど古い起源を持つ酵素を、哺乳類はどうやって獲得したのでしょうか? 想像を逞しくするならば、NAMPTという酵素は、バクテリアがバクテリオファージから貰い受けたように、哺乳類の先祖となる生物が、共生関係にあったバクテリアから直接貰い受けたものなのかもしれません。残念ながら、この仮説を証明することはほぼ不可能なので、科学的には類推の域を出ない考えです。とはいえ、NAMPTが非常に古い起源を持つ、哺乳類にとって必須の酵素であることをお分かり頂けるのではないか、と思います。
04.
NAD+ブースティングの黎明

図2 NAMPTの酵素反応
実は、NAMPTが酵素として作り出す物質がNMNになります。NAMPTはニコチンアミド(ビタミンB3の一種)と、5’-ホスホリボース•ピロフォスフェート(5’-PRPP)と呼ばれる物質を出発物質としてNMNを合成します(図2)。そしてNMNは、もう一つ別の酵素によってNAD+へと変換されます。上記で述べたように、NAMPTは生物にとって必須の酵素で、ニコチンアミドから出発してNAD+を合成する経路が哺乳類では主として使われています。この他にも、ニコチン酸やトリプトファンからNAD+を合成する経路もあり、NAD+の合成は生体の中で何通りものやり方で行われるようになっているのです。それほど重要なのだ、ということですね。
ところがNAD+は、私たちの身体の中で加齢とともに減少してしまうことが明らかになりました。この意外な事実を最初に報告したのは、NAMPTの発見をした今井研究室で、2008年のことでした。この論文の中で初めて、NMNが老齢マウスにおいて、血糖値を下げる働きを持つホルモン、インスリンの分泌を増強する働きがあることが報告されたのです。そしてさらに2011年には同じく今井研究室から、マウスのさまざまな臓器の中で、加齢とともにNAMPTの量が減り、そのためにNAD+の量が減少してくることが報告されました。
また高脂肪食によって2型糖尿病になったマウス、あるいは加齢に伴って2型糖尿病を自然発症したマウスにおいて、NMNが糖尿病の症状を劇的に改善する作用があることが示されました。NMNの抗老化作用が決定的に示されたのは、今井研究室から発表された2016年の論文でした。この研究において、2種類の用量のNMNが5ケ月齢から17ケ月齢まで、1年間にわたってマウスに投与されました。その結果、代謝が活性化され、身体活動も活発になり、体重が減少して、血中の脂肪値やインスリンに対する反応性が改善されました。また遺伝子の発現状態も若い頃の状態に戻り、ミトコンドリアという細胞内のエネルギー産生工場の働きも上昇して、非常に多岐にわたる抗老化作用が示されることが明らかになりました。NMNを投与されたマウスは、特に重大な副作用も示さず、癌にかかる率も対照群と変わりませんでした。この研究によって、少なくともマウスにおいて、NMNが明確な抗老化作用を示すことが初めて証明されたのです。
この研究を皮切りに、その後膨大な数のNMNに関する研究が世界中の研究者から発表されました。その研究結果の全てをここでご紹介することは叶いませんが、全てをまとめると、NMNには顕著な抗老化作用があること、また糖尿病、アルツハイマー病、動脈硬化、など老化関連疾患の症状の多くを有意に改善する効果があること、が報告されてきました。NMNの研究とともに、NMNと非常によく似た物質で、ニコチンアミド•リボシド(Nicotinamide Riboside; NR)の研究も活発に行われ、NRにも同様の作用があることがわかってきました。NMNもNRも、NAD+合成を増強し、体内のNAD+の量を増大させることによって働きます。このために、NMNやNRを用いてNAD+の量を増大させることで抗老化作用を得る方法論は、「NAD+ブースティング」と呼ばれるようになりました。
05.
NMNトランスポーターSlc12a8の発見

図3 NMNトランスポーターの量はNAD+の量で調節されている
それでは、NMNはどのようにして体の中に取り込まれるのでしょうか? この難問に答えを出したのは、10年以上の歳月をかけてNMNの研究を進めてきた今井研究室でした。2019年に発表された論文で、Slc12a8という名前のタンパク質が、NMNを細胞内に取り込むために働く「トランスポーター」であることを報告しました(図3)。ところがその後、この研究分野の科学者の一人から、このSlc12a8のNMNトランスポーターとしての働きに疑問が投げかけられたのです。こうした疑問が生じた原因の一端は、NMNを測定することが非常に難しいことにありました。NMNの精密な定量的測定法が開発されるのに、それからさらに5年の歳月が必要でした。2024年に発表されたdimeLC-MS/MS法と呼ばれる測定方法により、NMNを定量的に精密に測定することが可能となり、これによって、NMNが非常にすばやく血中に取り込まれること、また細胞内に取り込まれる際にはSlc12a8が必要とされること、が明確に示されました。
NMNトランスポーターSlc12a8には面白い性質があります。細胞のNAD+の量が減ってくるとSlc12a8の量が増え、NAD+の量が増えてくるとSlc12a8の量は減らされるのです。つまり、細胞がもっとNAD+を必要とするような状況になると、Slc12a8の量を増やすことによってさらにNMNを取り込み、NAD+の量を増やすように働く、という訳です。この現象は、NMNが吸収される小腸においても起こっています。そのためNMNを大量に摂ろうと思っても、NMNからNAD+が作られて必要十分量に達すると、腸管のSlc12a8の量が減らされて、ある一定以上には吸収しないように制限がかかります。ですから、NMNはたくさん摂取すれば良い、というものではない、ということをおわかりいただけるのではないか、と思います。
実はこのSlc12a8は、脳の中の特定の神経細胞が持っている、ということがわかってきています。例えば、最近の研究では、脳の中の「乳頭体上核」と呼ばれている領域にある特殊な神経細胞群がSlc12a8を持っていることが明らかになっており、これらの神経細胞群はREM睡眠と呼ばれる睡眠の調節に重要な役割を果たしていることがわかってきました。ヒトでは老化に伴ってREM睡眠の量が減ってきてしまいますが、REM睡眠の量を保っていることが年齢に伴う死亡率を下げるのに重要であることが報告されています。興味深いのは、この神経細胞群の働きは加齢とともに低下してしまうのですが、NMNを与えると、わずか1~2時間のうちに、その働きが若い頃の状態に戻って、REM睡眠が増強されることです。このように、脳内の特定の神経細胞は、NMNに依存した働きを持っていることが明らかになりつつあり、そのためにはNMNトランスポーターであるSlc12a8の働きが欠かせないのです。
06.
「ニュートラシューティカル」としてのNMNとその未来
以上見てきたように、NMNの抗老化作用のメカニズムに関してはすでに膨大な量の知見が蓄積されてきています。ヒトにおいても様々な臨床試験が実施されてきており、健康にとって有用な作用があることが報告されつつあります。例えば、2021年にワシントン大学の研究グループによって発表されたNMNの臨床試験では、閉経後の前糖尿病段階にある肥満あるいは過体重の女性に対して、1日250mgのNMNを10週間服用させたところ、骨格筋のインスリン感受性が有意に高まることが報告されました。また東京大学から2022年に報告された臨床試験では、老齢男性にやはり1日250mgのNMNを6~12週間服用させたところ、歩行速度が早まり、左手の握力が増強されることが報告されました。中国でアマチュアランナーを対象とした臨床研究では、1日300,600、1200mgのNMNを6週間投与したところ、酸素消費量や有酸素運動の限界が改善されることが報告されています。このようにNMNはヒトにおいても健康を改善する作用を示すことが明らかになりつつありますが、「抗老化作用」を示すと言えるかどうかについては、まだ更なる検討が必要のようです。またヒトの場合には、NMNの作用についてかなり大きな個人差があることが明らかになりつつあります。この個人差がどのような原因によるものか、今後の更なる研究が待たれます。
このようにNMNは大きな可能性を秘めた物質ですが、現時点で注意をしなければならない点もいくつかあります。近年日本の一部のクリニックを中心に、「NMN点滴療法」と呼ばれる、NMNを直接静脈内に注入する療法が宣伝されています。NMNを経口で摂取するのに比べて、この方法には大きな危険が潜んでいます。実はNMNは、ある高い濃度に達すると、SARM1と呼ばれる非常に強力なNAD+分解酵素を活性化することが知られています。SARM1が常に活性化された状態にあると、長年の間にALSと呼ばれる運動神経の麻痺を引き起こすことが、ヒトにおいてすでに報告されています。NMNは経口で摂取した場合には、血中濃度はそれほど高い濃度には達せず、速やかに血中から臓器•組織に取り込まれていきますが、血中に直接注入した場合には、SARM1を活性化させるのに十分な高い濃度に達します。こうしたSARM1の活性化が繰り返される結果、人体にどのような影響が出てくるのか、現時点では全くわかっていません。前章で述べたように、NMNに対する反応には非常に大きな個人差があります。ですから、中にはSARM1の活性化が繰り返される結果、よくない影響が出てきてしまう人たちがいる可能性が十分に考えられます。このような理由から、例えば日本抗加齢医学会からも、「NMN点滴療法」の有効性•安全性を懸念する声明が出されています(https://www.anti-aging.gr.jp/2024/03/01/post-7992/)。
また一方で、非常に高い用量のNMNを含んだ製品も販売されています。現在までに、1日1〜2gのNMNを服用させた臨床試験の結果も報告されており、それらの短期間の服用期間中は特に大きな問題は認められていません。ところが、4章で述べたように、腸管からNMNを吸収できる量には限界があります。その限界をはるかに超える量のNMNを摂取した場合、ほとんどは分解されてニコチンアミドとなり、血中に入っていきます。このため、高用量のNMNを摂取すると、血中のニコチンアミドの濃度が通常ではあり得ないくらいの高濃度に達します。このような状況が長期間にわたって繰り返されると、肝臓の機能が障害される可能性があり、高用量のNMNの長期間にわたる摂取も、安全性がしっかりと確立されるまでは控えた方が良いと考えられます。
現在安全であることが確認されているのは、1日250mg~500mgの範囲で、これを超える量に関しては、長期間の服用に際しての安全性は確認されていません。またNMNの効能に関しても、更なる臨床試験を積み重ねていくことが非常に重要です。前に述べたように、NMNの問題点は、ヒトにおいてその反応性に大きな個人差があることです。そうした点を考慮せずに「NMNは効かない」という発言をされる方々がいらっしゃいますが、それは正しくありません。NMNは薬とは異なり、健康な方々でもその身体の機能を維持するために、そして「健康長寿」を実現していくために予防的に服用することが望まれています。今後は、どのような性質、状況にある人が反応し、逆にどのような性質、状況にある人が反応しないのか、ということを明らかにしていく必要があります。そうした研究はまだ始まったばかりなのです。

図4 S1PCとNMNはサーチュインSIRT1の活性を協調的に活性化させる
またNMNは分解されるとニコチンアミドになることは述べましたが、ニコチンアミドはNAD+を作るための重要な出発物質ですから、このニコチンアミドを再利用できる方法があれば、NMNの効果をさらに増強させることができるのではないか、と考えられます。実は、適度な運動によって骨格筋の中のNAMPT、また血中を巡っているeNAMPT(extracellular NAMPT;細胞外NAMPT)の量が増えることが、マウスでもヒトでも報告されており、NMNの摂取に運動を組み合わせると、NMNから生じたニコチンアミドの再利用を促してやることができる、と考えられます。
もう一つは、熟成ニンニク抽出液中に含まれているS1PCという新たなニュートラシューティカルを利用する方法です。湧永製薬とIRPAの最新の共同研究の成果から、S1PCは脂肪組織からのeNAMPTの分泌を増強することが、マウスでもヒトでも実証されています(「S1PC」のウェッブページを参照)。S1PCは脂肪組織において、サーチュインの主要なメンバーであるSIRT1の活性を高める働きを持っているので、NMNによってNAD+の量を高めてやると、さらにeNAMPTの血中量を増すことができることもわかりました(図4)。これによって、NMNから生じてくるニコチンアミドの再利用も促進されるため、一石二鳥の効果が想定されます。実際にS1PCは、eNAMPTの分泌促進を介して、脳の視床下部のNAD+量を高め、それによって老化に伴って衰えてくる骨格筋の筋力を増強する働きがあることが明らかになりました。このように、最新の老化•寿命研究から明らかにされたS1PCのような物質とNMNを組み合わせることによって、科学的に厳密に実証された枠組みのもとに抗老化方法論を確立していくことが可能になってきています。今後、このような研究がますます加速していくことが予想され、NMNやS1PCのような「抗老化ニュートラシューティカル」が健康長寿の実現のために正しく利用されるようになる日もそう遠い未来の話ではない、と言えるでしょう。
07.
おわりに
一般社団法人「プロダクティブ•エイジング研究機構」(通称IRPA)は、最先端の老化•寿命研究を推進することによって、「プロダクティブ•エイジング」を社会に実現し、それによって日本を「健康長寿国家」の世界的なモデルとして発信していくことを目指しています。eNAMPTの研究をはじめ、NMNやS1PCといったニュートラシューティカルの研究など、社会応用を目指した最先端の老化•寿命研究を行なっています。企業や大学の研究者の方々との 共同研究も広く行なっておりますので、ご興味がおありになる方々は是非お問い合わせください。日本が世界に冠たる「健康長寿国家」として、私たちの社会の明るい未来を実現していくために、より多くの方々とともに努力を積み重ねていくことができれば、それに勝る喜びはありません。今後ともどうか何卒よろしくお願い申し上げます。
