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Discovery of S1PC

一般社団法人『プロダクティブ・エイジング研究機構(Institute for Research on Productive Aging; IRPA)』の吉岡潔志主任研究員と、湧永製薬株式会社中央研究所との共同研究チームは、熟成ニンニク抽出液に含まれる「S-1-プロペニル-L-システイン 

(略称S1PC)」(図1)が、「脂肪-脳(視床下部)-筋肉」という臓器間コミュニケーションを介して健康を支え、老化に拮抗する作用を発揮することを明らかにしました。 

図1

S1PCが、脂肪組織の中にあるLKB1と呼ばれる重要な酵素に働きかけて、抗老化酵素である「細胞外NAMPT(eNAMPT)」を含む細胞外小胞(eNAMPT-EV)の血中への分泌を促進することを、世界で初めて発見しました。分泌されたeNAMPT-EVは脳の視床下部に到達して細胞のエネルギー源である「NAD+」の合成を高め、交感神経を介して加齢に伴う筋力の衰え(フレイル)や老化指標を改善することが、マウスを用いた実験で明らかになりました。さらに、ヒト臨床試験においても、25mgのS1PCの摂取により、健康な量の脂肪を蓄えた被験者の血中でeNAMPTが増加することが確認され、培養細胞、マウス、ヒトで共通した作用をもたらすことが明らかになりました。 

 

以上の結果から本研究では、S1PCが今までに見つかったことのないLKB1の活性化剤として作用すること、S1PCが骨格筋を中心に抗老化作用をもたらすことを示し、その作用機序の解明だけでなく、生体に備わった「脂肪-脳-筋肉」という健康を支え、老化に拮抗する働きをしている重要な臓器間コミュニケーションの存在を明らかにしました。S1PCはこの臓器間コミュニケーションの活性化を介して全身の抗老化に寄与することから、次世代の抗老化ニュートラシューティカル(機能性食品成分)としての応用が期待されます。 

本研究の成果は、2026年5月7日に国際学術誌『Cell Metabolism』にて発表されました。 

(解説) 

 

ニンニクはギリシャ時代から健康維持に良いとされ、世界中で人類に重宝されてきました。特に、熟成ニンニク抽出液に含まれる「S-1-プロペニル-Lシステイン(略称S1PC)」という成分には、様々な健康効果が報告されており、近年注目を集めています。本研究では、このS1PCが持つ全く新しい作用機序と、生体におけるその詳細な効果について解析を進めました。 

 

近年、加齢に伴う細胞のエネルギー源「NAD+」の低下が、様々な臓器の老化に深く関わることが明らかになってきています。NAD+の合成に必須の酵素であるNAMPT(nicotinamide phosphoribosyltransferase)は、脂肪組織から細胞外小胞(extracellular vesicles; EVs)に内包されて血中に分泌され(eNAMPT-EVと呼ばれます)、脳の視床下部などに到達してNAD+を増やし、健康の改善と寿命の延伸に寄与することが知られています。 

 

研究の結果、摂取されたS1PCは脂肪組織に取り込まれて、代謝を制御する上で重要な役割を担っているLKB1という酵素を活性化させることが明らかになりました(図2)。LKB1が働くためには、STRAD、MO25と呼ばれる二つの因子とともに複合体を作ることが重要なのですが、S1PCはLKB1とSTRADを結合させる「接着剤」のような働きを持つことが明らかになりました。この結合によってLKB1が活性化されると、哺乳類サーチュインの代表格である「SIRT1」をリン酸化、という働きによって活性化します(図2)。SIRT1は脂肪細胞中でNAMPTに働きかけることにより、脂肪細胞からNAMPTがeNAMPT-EVとして血液中へ分泌されるのを促進します。 

血液に乗ったeNAMPT-EVは、脳の視床下部へと直接届けられ、そこでNAD+が作り出されます(図2)。視床下部のNAD+が増えて機能が高まると、今度は脳から骨格筋へ向かう交感神経の活動が活発になります。この活発な指令を受け取った筋肉では、加齢による筋力低下が改善し、身体の虚弱(フレイル)が軽減されることが確認されました。 

図2

ここでもう一点、注目すべき発見は、NAD⁺の材料として知られる「NMN」との関係です。NMNは、体内でNAD⁺に変換される物質として、世界的に健康維持の分野で非常に高い関心を集めている「抗老化物質」の最有力候補です(「NMN研究の流れ」を参照)。本研究では、このNMNとS1PCを同時に摂取することで、eNAMPT-EVの分泌がさらに増強されることも明らかになりました(図3)。S1PCがeNAMPT-EVの分泌を促すSIRT1の活性化剤として働き、そこにSIRT1の動力源となるNAD+の原材料であるNMNが加わることで、SIRT1の働きがさらに増大し、健康を支える臓器間コミュニケーションがより強力に活性化されると考えられます。この点で、NMNとS1PCの組み合わせは、SIRT1の活性を増強する理想的な組み合わせであると言えます。 

図3.png

図3

さらに本研究では、このS1PCによるeNAMPT-EVの分泌促進効果がヒトにおいても認められるかどうかを検証しました。健常な男女を対象とした臨床試験を行った結果、適度な脂肪量を維持している中年以上の被験者において、S1PCの経口摂取により血中のeNAMPT量が有意に増加することが確認されました。 

 

これらの結果は、熟成ニンニク抽出液由来の成分であるS1PCが、単なる栄養成分にとどまらず、ヒトにおいても脂肪組織からのeNAMPT分泌促進を介した「生理的なNAD⁺ブースター」として働き得ることを示しています。これまで悪者扱いされがちだった脂肪組織が、実は私たちの健康を支えるために重要なメッセージを脳に向けて発信している、ということが明確に示された、と言えます。本研究で明らかにされた、健康を支え、老化に拮抗する臓器間ネットワークの理解を深めることで革新的な抗老化アプローチへの発展が可能となります。中でもNMNとS1PCの組み合わせは、健康寿命延伸の夢を実現するための、次世代の抗老化ニュートラシューティカル(機能性食品成分)としての実用化が強く期待されるもの、と言えるでしょう。 

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